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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)61号 判決 1992年12月24日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(審決の理由の要点)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決の取消事由について判断する。

(1) 本願商標を構成する「純」の文字が一般に「他の物が少しもまじらないこと。自然のままでつくりかざらないさま。」などの意味を有する語として理解されており、それ自体が自他商品識別標識としては認識されえないものであることは、当事者間に争いがない。

原告は、本願商標と同一の構成態様からなる標章が使用された結果、取引者需要者により原告の業務に係る商品であることが認識され、本願商標には社会的に自他商品識別機能が備わつている、と主張するので、この主張について検討を加える。

(2) 《証拠略》によれば、「純」の文字を大きく書き、「宝焼酎」の文字を小さく書いて二段に表して標章、「宝焼酎」の文字と「OLD DELUXE」又は「70Proof」の文字とを小さく、「純」の文字を大きく書いて三段に表した標章が、数種の原告の製造販売に係る焼酎(以下「原告焼酎」という。)の瓶若しくはその瓶を詰める箱又は原告焼酎に関する広告に附されていること、原告の依頼によりテレビコマーシャルフィルムにおいてもこれらの標章が放映されたこと(もつとも、これらテレビコマーシャルフィルムにおいては、商品と商標との関係が明らかでないものが一部含まれている。)、その結果、原告焼酎を「宝焼酎純」(「純」の文字に引用符を附し、又は「宝焼酎」と「純」の文字の間に中点を附したものを含む。)と表記して紹介する新聞、雑誌の記事が数多くあり、焼酎、広告等に関する書籍、専門誌の中にも、原告焼酎を「宝焼酎純」(前同様)と表して取り上げたものや、上記標章の附された瓶の写真を登載したものが多々見受けられること、「宝焼酎『純』スペシャル」と銘打つて原告後援に係る音楽会が開かれた例があり、原告がテレビ広告に起用した歌手の紹介記事の中でも「宝焼酎・純」の文字が使用されたものがあること、原告が本件審決時までに出願を終えた商標でその構成の中に「純」の文字を含むものとして別紙記載のものがある(このことは、原告も争つていない。)が、これらはいずれも、「純」の文字を大きく又は強調して書き、それに「宝焼酎」、「宝酒造」又は「宝」の文字を小さく又は印象を弱めて書き、これらの文字のみで又は他の文字、図形若しくは記号と結合してなるもので、それぞれ既に登録ずみであり(以下これらの商標をあわせて「原告登録商標」という。)、前記の原告焼酎に係る標章は、原告登録商標の中のいずれかであるか、又は原告登録商標のいずれかに著しく類似していることが認められる。

この認定事実によれば、原告の担当者等原告内部の意識においても、取引者需要者を含む社会一般の意識においても、原告焼酎について使用された標章は、「純」の文字と「宝焼酎」の文字等とが結合して一体として使用されてきたものというべきであり、「純」の文字のみで独立に使用されてきたということはできないと判断される。

(3) もつとも、《証拠略》によれば、原告の依頼によりテレビコマーシャルとして放映されたものの一部に「純」の文字のみからなる標章があつたと認められる。しかしながら、これらの証拠にはその標章と原告の商品との関連性が示されておらず、他にこの関連性を認めるに足りる証拠がないから、(2)の判断を左右するには足りない。

(4) また、《証拠略》によれば、新聞、雑誌、単行本の記事において原告焼酎を単に「純」とのみ称呼している例があること、同様の例が商店の売上伝票の記載例においても見られること、が認められる。

しかしながら、本件全証拠を検討しても、本件審決時までに、原告焼酎に「純」のみの標章を付したものは全く見当たらないのみならず、《証拠略》によれば、原告焼酎を指すのに、「宝焼酎純」(ただし、《証拠略》においてのみは「宝しようちゆう純」。)という称呼とともに単なる「純」という称呼を混用している広告、雑誌記事、新聞記事が多くあること、殊に、雑誌記事、新聞記事のうち、原告焼酎に関する通常の記事の部分においては単に「純」と表示しながら、見出し、冒頭部分、別枠記事、写真等商品の名称をいわば正式に表示すべき部分の中では「宝焼酎純」と表示するものが目立つこと、原告自身においても、前記のとおり新聞広告、雑誌広告等の中で、「純」の文字を大きく書き「宝焼酎」の文字を小さく書き二段に表した標章を用いて原告登録商標又はそれと著しく類似する標章を使用しつつ、宣伝文の中では自ら製造販売する焼酎を単に「純」と呼んでいることが認められる。

そうしてみると、原告焼酎にあつては、原告担当者等原告内部の意識においても、需要者取引者を含む社会一般の意識においても、標章としては結合して一体となつた「宝焼酎純」を正式のものとしつつ、その略称として「純」とも称呼することが一般的であつたことが明らかであり、したがつて、上記のとおり原告焼酎を単に「純」と称呼する記事、伝票の記載があつたからといつて、前記(2)の判断を動かすことは困難であるというほかはない。

(5) さらに、《証拠略》に照らせば、原告が本件審決時より後の平成四年六月以降において原告焼酎について「純」の文字を「宝焼酎」又は「宝」の文字と多少なりとも切り離して使用したと認めるべき可能性が全くないわけではない。

しかしながら、審決取消訴訟は特許庁のした行政処分である審決の取消を求める訴訟であり、判断の基準時は処分時の審決時であると解すべきであるから、これらの証拠により前記(2)の判断に影響を及ぼすことはできない。

(6) そして、甲第五二四号証には、関西大学の吉田真弓が全国の酒類小売店業者に対してアンケート調査したところ、「(焼酎)純」を知つているかという問に対し回答を寄せた全員が「知つている」と答えたことが記載されている。

しかしながら、同証は平成四年九月一七日付で作成されたもので、本件審決時までの事実を調査したと認めるに足りないのみでならず、同証記載のアンケート内容は所詮称呼に関するものであることが明らかであるから、前記(4)において検討したとおり、前記(2)の判断を動かすに足りない。

(7) そして、他に前記(2)の判断を覆すに足りる事実を認めるべき証拠はない。

そうすると、本願商標の「純」の文字が標章として独立して商品「焼酎」に使用されて社会的に自他商品識別機能を備えるに至つたということはできない。

したがつて、本願商標と同一構成態様の標章が指定商品の焼酎について使用されていることが認められないことを理由に、本願商標が商標法三条二項の要件を具備したとは認められないとした審決の判断は、正当である。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田 稔 裁判官 成田喜達 裁判官 佐藤修市)

《当事者》

原 告 寳酒造株式会社

同代表者代表取締役 田辺 哲

同訴訟代理人弁護士 小野昌延 同 中山晴久 同 鳥山半六

同訴訟復代理人弁護士 斉藤方秀

同訴訟代理人弁理士 新実健郎 同 村田紀子

被 告 特許庁長官 麻生 渡

同指定代理人 巻島豊二 <ほか一名>

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